ぼくの好きな食べ物はカレーだ。
ただ、香草の類があまり得意ではないのとあまりに辛いのも美味いのか辛いのか分からなくなるからインドカレーとかの本格的すぎるカレーはあまり好きではない。
そういう類のいわゆる本格的なカレーを出す店で1軒だけ絶対的な信頼を置く店はあるがあとの店では大抵無難にバターチキンカレーを頼む。
というわけで、家で食べる甘口と中辛のブレンドくらいのがぼくの中でのベストオブカレーである。
家のカレーはよく煮込まれ、じゃがいもあたりは溶けかかって形を成していないくらいになっていて欲しいし、月並みだがやはり2日目のカレーに勝るカレーはそうそうない。
三日目にはチーズやら季節の野菜やらソーセージやらを足して具で変化を楽しみ、四日目あたりの具がほぼ無くなったカレーはカレーうどんにアレンジしてみたりもできる。
有能すぎる。
ただ、カレーうどんはあくまで「うどん」であり、カレーはやはりライスに限ると思い知る。
そういう反省を踏まえて次はドリアにしてみたり。
そんな紆余曲折を含んだカレーという「時間」には趣さえ感じる。
そして、ぼくは気付いた。
カレーとは美容師であるということに。
ひとくちに美容師と言っても、カラーが得意な人、カットが得意な人、ヘアケアに特化した人、イケメン、イロモノ、ウェイウェイ系、ガチヲタ系、実に様々なジャンルの美容師がいる。
インドカレー、ヨーロッパカレー、スープカレー、海軍カレー、キーマカレー、そして家で食べる家庭のカレー。
カレーと美容師のジャンルの幅広さは無限である。
そして美容師もまた、2日目からが真価を発揮する。
と言っても実際に2日ではなく、経験値の差についてだ。
千差万別の髪質に対応し、お客様の生活環境や心情までを切り取るにはセンスや要領の良さだけではカバーしきれないものがある。
しかし、美容師の道はラビリンスである。
入口はあっても出口はない。
時には培った技術も時代遅れとなり新しい「具」を身につける必要があるし、煮込んでいるあいだに今までの技術=具は成分としては残るが融解し感覚として染み付き無意識レベルになる。
ある程度の経験を積み、土台が出来れば己をアレンジしていく。
1つの技術に特化したり、撮影などやセミナー活動など二次的活動をしてみたり、全く別ジャンルのことに取り組む美容師も少なくはない。
具を足したり少しずつアレンジを加えても、結果的に「カレー」であることから外れてしまうとそれはカレーに似た何かになり本質を失いかけたりもする。
カレーはよく、その家庭の味があると言われる。美容師も同じくその美容師だからこその「味」があるのだろう。
色々な試行錯誤を経て自分らしいカレー、自分らしい美容師になっていく。
やはり、カレーは美容師であり、美容師はカレーだ。
昨夜食べたキーマカレーのせいでぼくは今日、インド人もびっくりするほどの胸焼けに襲われている。
おしまい。